コト|2023/08/28
~「人を送る」という仕事に接して~
コロナ2年目の春。桜が咲く季節に、母が急逝した。救急搬送されて入院、わずか10日目のことであった。
コロナで面会禁止となっていたため、お任せするしかない入院生活に少し慣れてきた頃、突然の電話。約1時間後、病室に駆けつけた頃には、もう息絶えていた。
病院で死後の処置をお願いする間に、万一の時にと聞いてあった、葬儀場のコールセンターへの連絡。24時間体制だ。
とにかく、初めてのことでどうしたら良いかわからない。まずは、今すべきことから聞く。お迎えの車、そしてお寺さんの手配・・・。手配した車に息を引き取った母と一緒に乗って、葬儀場の安置所に向かう。なんともいえない移動時間。そして、用意された部屋に母を寝かしてもらい、そこから葬儀までの長い時間が始まる。
亡くなったのは夜であったため、翌朝、安置室にまずはお寺さんがおいでになり、枕経。その後、葬儀社の担当者が来られて、そこから打ち合わせ。とにかく、知らないことばかりで、この人を頼るしかない。物腰柔らかで40代ぐらいの男性。名刺をいただくと1級葬祭ディレクターという肩書をみつけた。闇の中に、少し安心感が芽生えた。
まずは葬儀のカタチ。母は盛大に皆さんに送ってほしいという強い願望があったため、家族葬ではなく、一般葬を選択。
そして、日時を決定。少しでも多くの方に送っていただきたいという願いに沿うように、ある程度情報が地域にいきわたるよう、日程に余裕をもたせた。
祭壇は、私の影響?か、晩年、紫色が好きだったことも伝え、花を多くして、そこに白い菊よりも、紫の花を多く入れるなどいろんな要望をお伝えした。
そして、母には音楽葬への憧れもあったので、葬儀には私が作った曲を歌ったり、BGMで流すなどしたい・・と細かく要望。
そのプロデューサーは私が話すさまざまなアイデアを、前向きに「かしこまりました。では、このようにいたしましょう」と、すべて聞き入れてくれた。
そして、さまざまな儀式についても初めての経験。すべて、このプロから教えていただき、その提案・案内に沿って、こちらが対応していく形をとった。
葬儀までの3日間。写真の確認から、画像加工処理の確認。フレームの色の確認から葬儀の返礼品の打ち合わせ、お花、電報の確認…。これまで知らなかった葬儀の表と舞台裏までもが少しづつわかってきた。そんななか、生涯忘れることのない仕事にも出会うことになる。
まずは、会場を演出する花屋さんの仕事。
花祭壇は最近は多く採用されているが、この花の鮮度、また飾り付けのセンスは葬儀全体の印象に大きくかかわるため、花屋さんの仕事は重要だ。こちらも、希望どおりに叶えてもらえた。
そして、一番印象に残ったのは、納棺士さんの仕事。
安置室に横たわる母をお風呂に入れてもらい(湯灌というそうだ)、シャンプーもしてもらい、私と妹も一緒に参加して、母をきれいに。そして、用意した母のお気に入りの洋服を着せてもらい、(上に載せるだけでなく、本当に着せてくれたことには驚いた)、髪の毛もキレイにブロー。お化粧は、人生81年のシミをすべてきれいにかくして、見たことがないほどの美人に変身。最後は私がプレゼントした帽子とスカーフで仕上げ。母の長い旅立ちの装いが、完ぺきすぎるほど素敵に完成。そして納棺・・・。(この瞬間は、さすがにこみあげるものがあったが)
この重い仕事を、20代らしき若き女性が二人で担当された。母の亡骸を大切に大切に扱って、心を込めてきれいにしてくださって、その静かで的確な仕事ぶりを見て、感動した。「髪の分け目はどちらですか?」「口紅の色はこんな感じでよろしいですか?」と、きめこまやかに確認しながら、母をたちまちにキレイにしてくれた。今も忘れることができない見事な「送り人」のお仕事ぶり!
おかげさまで、準備が整い、通夜も、告別式も、多くの方に参列いただき、無事に母を送ることができた。「お母さん、すっごくキレイやね。」とみなさんに褒めてもらい、そして会場も「お母さんの世界ができあがっていたね」とのお言葉をいただき、皆さんに、歌もマスクの下で歌っていただき・・・。
母の好きな花、色、音楽そして大切なお友だちに送られ、母は旅立った。「お母さん、喜んでみえるね」そんなお声も多くいただいた・・・。
親の葬儀というのは、誰もが経験しなければならない人生の一大事。大仕事。そして人生最大の非日常。
今回、このことを無事、悔いなく済ませることができたことに対し、プロデューサーにお礼のメールを送る。すると、こんなメッセージが届いた。
「一番近いご遺族である昌子さまがどんなお気持ちで葬儀に臨んでみえたのか、その気持ちが分かり…悔いなく送っていただけたこと。そして、少しでもそのお手伝いができたことを光栄に思います。
我々の仕事は、決して慣れてはいけないものであると考えています。
仕事として、毎日の業務と割り切るのではなく、ご遺族にとっては、それがたった一度きりの葬儀であるという事を常に心に置いて執り行わせていただくよう努めています。」
(JAぎふ葬祭センター 葬祭シニアプロデューサー 太田賢史さん)
仕事に慣れてはいけない。この言葉が心に強く深く刻まれ、そして今回の葬儀でお世話になったこのプロデューサーはじめ、納棺士さん、さまざまな葬儀のプロフェッショナルのことを思い出しながら、仕事に対する向かい方について大いに学ばせていただいた。この仕事に限らず、決して仕事に慣れず、それぞれのお客様に精いっぱい尽くすこと。そうありたいと改めて・・・。
このコロナ禍の大変な時期に、さまざまな条件が重なって、母の希望どおりの送り方ができたことはありがたかった。
一方、コロナでお亡くなりになった方、その影響で大切な方の死に立ち会えない方や送ることもできないという方がおられる現実に心が痛む。
一日も早いコロナの終息を、心よりお祈りいたします。
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